omoriの備忘録

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通訳はAI翻訳とどう共存すべきか

翻訳技術の大進歩

外国語を勉強せずとも世界中の人々と意思疎通ができる時代がやってきた。

かつては通訳を介して外国人とコミュニケーションを行ってきたがAIを用いたニューラル機械翻訳(NMT)により、わざわざ海外出張でも通訳を連れていく必要がなくなる。

 

2016年Googleは自社のGoogle翻訳の技術を「統計機械翻訳(SMT)」からディープラーニングアルゴリズムを取り入れた「ニューラル機械翻訳(NMT)」に変更した。

最初こそNMTは翻訳精度がとても低かった。しかし、AIというのは膨大な数のデータを読み込ませることでAI自身がアルゴリズムを少しずつ変えながら最適化していく。そうして徐々にNMTの翻訳精度が向上した。「2020年にはAI翻訳がプロの翻訳者を上回る確率が高い」とマイクロソフトは2018年の機械学習に関する国際会議で報告している。

 

英語→中国語においては非常にデータが豊富なので翻訳精度も高いといわれている。

 

日本語→英語においても英語→中国語ほどではないがプロ翻訳者に並ぶ水準になっている(みらい翻訳社より)。

 

通訳の仕事をAIに奪われるのではないか?

このような事実から「AIのせいで通訳は活躍できる場がなくなる」と懸念する人も多い。実際、ソースネクスト社はその場で話しかけると50以上の言語に音声通訳する翻訳機「ポケトーク」を2017年に発売開始した。ポケトークの登場によって接客業では通訳の人材不足が一気に改善したとの声もある。

しかし、結論から先に言うと「通訳者の仕事はなくならない」のである。

AIが得意な翻訳というのはテキストデータ(もしくは音声データ)をそのまま自然な外国語に訳すことだ。

だが、外交政治の場を考えてみよう。互いの国は様々な利害関係を持っており、一つ一つの発言が大きな影響力を持っている。これをAIにわざわざ理解させたうえで翻訳させることが容易にできるだろうか。さらに、AIがもし差別的な表現に翻訳したら誰が責任を取ることができるだろうか。このように、言語情報以外の様々な要素や発言の責任が伴う翻訳はAIにさせるべきではない、人がするべきなのである。

では、AI翻訳はどのような場面で活用できるのだろうか。例えば、日系ブラジル人労働者が多い群馬県では市役所での手続きにおいて色々意思疎通が難しいという声がある。このような場合、市町村や企業は通訳者を雇ったり、通訳者を有している企業にアウトソーシングするということが多い。しかし、通訳者は現在人手不足であり、働ける時間も限りがあったり、アウトソーシングする側にとっては費用が高いといった問題点がある。こういう場所にこそAI翻訳を導入すべきだ。機械なので働く時間も関係ないし、費用も人間に比べれば安くなるだろう。

もう一つの場面を考える。製薬会社は新しい薬を開発するために世界中の研究者が書いた非常に多くの論文を読んでいる。2019年度の研究開発費増加額1位に武田製薬と某ニュース記事ではあったが、この研究開発費用の中には各国の論文を読む人のための人件費というのもあるだろう。しかし、あらかじめ英語やドイツ語の論文を日本語に翻訳できるならば、論文を読む人の負担も減り、会社側にとっても人件費節約につながるだろう。もちろん、論文だから専門用語も多く翻訳が難しいのではないかという人もいる。だが、現在のAI自然言語処理分野では法律や新聞といった様々なジャンルに合わせた翻訳というのもあるので、近いうちに薬品関係の論文に適したAI翻訳というのも可能になるだろう。

 

AI翻訳の社会的有益性

AI翻訳の活躍によって、社会はさらに豊かになるであろう。

外国語による意思疎通が誰でもできるようになり、各国の人や文化をより肯定的に受け入れるようになるかもしれない。企業にとっては通訳者の人材不足や人件費の問題を解決できるかもしれない。

 

通訳者はAI翻訳とどう向き合うべきか

これから事務処理での翻訳はAIが行う時代が来るだろう。一方で通訳者が活躍できるのはもっと高次元で複雑な場面での翻訳だ。それゆえ、通訳者はただ言語を勉強するだけではなく、文化的背景や政治の知識、経済やビジネスの知識を頭に入れたうえで適切な翻訳ができるようにならなければならない。そうすることでAIとうまく共存しながら通訳で活躍できるだろう。

通訳を目指す人の中にはAIが自分の通訳の仕事を奪うと思い敵対視する人も多い。だが、大切なのはAIが活躍できる場所はAIの翻訳に任せて、人間による翻訳が活躍できる場面では人間に任せるべきだという姿勢である。

これからAIの時代となっていく中で、個人の利益ではなく社会全体の利益を考えて「AIと共存する」という考え方が重要となってくる。